町場ブログ左官屋日和

2018上半期町場の現場

早いものでもう夏が過ぎ、ようやく秋の気配がしてきました。それにしても半端ない猛暑でした。左官仕事も、室内も屋外もどっちも熱中症リスクが高いので、例年にも増してその対策が大事なところでした。といってもこまめな水分補給、塩分補給、小休止、といった基本的なことをきちんと行うということになります。壁も体も乾きとの戦いなのです。
左官職人(猫)捏ね子太郎」をスタートしたのは良いのですが、町場班は漫画ばかりでちゃんと仕事をしてないみたいになっていそうですので、大急ぎでこの間の現場の写真をお届けしようというわけです。

2018上半期町場の現場1

2018上半期町場の現場2

2018上半期町場の現場3

写真ではなかなかわかりづらいのが左官仕事ですが、これはまたさらにわかりづらいかもしれません。内装で最近よく目にする特殊な意匠性で人気の塗り壁です。オンザウォールさんのコンティニューオという材料です。コンクリートの素地のような風合いを厚さ2~3ミリの世界で表現しています。他にもカラーバリエーション、テクスチャーも幅広く、店舗で活躍することが多いのですが、住宅でもアクセントに一面をこの系統の仕上げをするケースも見られるようです。ここは日本橋のお菓子屋さんのビルでした。
他に日本橋ではお寿司屋さんでジョリパットのワラスサ仕上げをしたり、国分寺のお寿司屋さんではジョリパットの洗い出し・・やはりジョリパットが多かったのですが、コンティニューオもまた違った風合いで独特な演出効果があって印象深かったです。

2018上半期町場の現場4

2018上半期町場の現場5

2018上半期町場の現場6

こちらはおなじみ漆喰の現場です。
リフォームの現場では、解体時にすごいことになっていることがほとんどです。それが仕上がってみると跡形もなくなるので、まるで魔法のようだとお施主さんにもそのあたりでまずお喜びいただけます。もちろん、大工さんのお仕事などさまざまな職種の方々の手によるところが大きいのですが、壁や天井を一気に仕上げていく左官仕事の結果は視覚的に劇的で、ちょっと美味しいところをいただいてしまっている感じで申し訳ありません。

2018上半期町場の現場7

この現場は両サイドの壁を漆喰で、階段はモルタルで仕上げています。階段も漆喰で?!などと一瞬盛り上がったのですが、屋上へ通じる階段で汚れやすいということもあり、やめにしました。
漆喰は、自然なコテ波の壁、押さえてフラットにした壁、モコモコと厚付した壁と3種類のパターンで仕上げてあります。写真では区別がつきませんが。フラットの壁はプロジェクターで映像を投影する一面にとのリクエストでした。

2018上半期町場の現場8

2018上半期町場の現場9

2018上半期町場の現場10

こちらはちょっと変わり種で、材料は珪藻土ですがパターンをレンガ調にしています。小面積が普通なのですが、これはなかなかの大壁でした。他にも、壁の形状に合わせて案外フィットさせられたりして柔軟性あるパターンです。

2018上半期町場の現場11

こちらはハケ引き、タテとヨコとウェイブ。です。ヨコが一般的ですが、風が流れるようなウェイブや、滝のようなタテ方向も良いものです。

2018上半期町場の現場12

2018上半期町場の現場13

2018上半期町場の現場14

こちらのような吹き抜けや、広い天井などはやはり珪藻土の風合いがはまるところです。

2018上半期町場の現場15

それから、トライアルで学生さんが手伝いに来てくれたことがありました。こちらはそのときのスナップです。美大の建築家の学生さんです。今は女性の左官職人も珍しくありませんので、将来ぜひともこの道へ進んでいただきたいものです。
町場部門では引き続き職人さんから見習いまで広く募集しております。気軽にお声がけください。よろしくお願いいたします。

2018年09月21日 町場

年末の現場リポート

早いもので2017年もおわり、2018年がスタートしています。
時計の針を少し戻したレポートです。

一年の中でも、もっとも日照時間が少ない時期、朝も夕も6時台がほとんど夜並みに暗いのには参ります。
そして、その時期は忘年会のシーズンでもあります。ありがたいことにいくつか出席させていただきました。
皆さま、その節はお世話になりました。

さて、そうした宴席は知らない人ばかりで、会場に入った瞬間どの席に座れば良いのだろうと戸惑う瞬間ってありませんか?とはいえ良い大人がそこでモジモジしてるのも何なので、主催社のスタッフとおぼしき女性2人と座っている吉田剛太郎似のおじさんの隣の空席にニッチを嗅ぎつけ、「そこ、すでにどなたかいらっしゃいます?」と質問し、いえいえ空いてますよのお返事をいただき、席を確保いたしました。自己紹介すると、吉田剛太郎似のレンタルおじさんのようなおじさんも左官屋でした。類は友を呼ぶのか。それからはえんえんと左官屋談義です。後から近くにいらっしゃった今場所から関脇に昇進しましたというような勢いのある基礎屋さんもいっしょになって弾む話に、美しい女性スタッフのお二人も最初のうちはついてきてくれましたが、そのうちに限界をむかえてフェードアウトしていきました。よほどの左官女子でない限り無理からぬことです。

関脇基礎屋さんの「いやー、左官屋に土間はまかせらんねーよ、下手だもん」的な口の減らないからみに、「そうっすよねー。土間屋さんにはかないませんもん」的ないい加減な相槌をうつのに対して、「そうだよねー、でも基礎屋さんが塗った立ち上がりって凄まじい段差で登れちゃいそうだよね」的な返しをする吉田剛太郎似のレンタルおじさん的左官屋さんはさすがです。そして、いまが8代めだという話なども伺いました。8代といえば江戸時代ですからすごいものです。「まあ、俺の代でおわりだけどな」と嘯く姿はとてもダンディでした。また、昔ながらの塗り壁はやるけれど、今様のスピーディな一発仕上げには馴染まないというお考えのようでした。「もう時代が違うもんねー」という脇で、時代かあ、と考えずにはいられませんでしたが、時代とともに生きないというのもなかなか難しいっすよねーというさらにディープな世界の入り口にさしかかった頃には酔いが回りすぎていた感じです。

会場の居酒屋があった町も昔はドヤ街といっても良いような不穏な空気を醸し出していましたが、今はもうそんなではありません。帰り道に、少し感慨にふけりながら散歩しました。そこで、反時代的ながら圧倒的な塗り壁に遭遇・・したりすれば話が盛り上がるのですが、そうは問屋が卸しません。

そんな年末にも色々とお仕事をさせていただきました。

年末現場リポート_現場画像1
年末現場リポート_現場画像2
年末現場リポート_現場画像3
年末現場リポート_現場画像4
年末現場リポート_現場画像5
写真は、お施主様ご在宅の現場で、珪藻土の女王・エコクイーンで仕上げました。もともと漆喰にしようかどうしようか迷われていたのが最終的に珪藻土に落ち着かれたそうで、そのため仕上がりはきめ細かく静かな表情をご希望されたため、NSRシリーズが採用されています。ですので、写真ではパターンも目立たないぐらいですが、実際には静謐なカーブや引きずりの表情がかすかに霧の中に浮かんでは消えるかのような微妙な陰影が見え隠れしています。

壁にかけられている木彫の工芸品は奥様の作品です。完工後、やはりお荷物の移動や他業者さんの出入りなどで若干傷ついてしまった部分の補修で伺ったおりでしたので、運良く拝見することができました。色々な品々を引き立たせる壁の仕上がりにご満足いただけているようで、とてもありがたいお言葉をいただきました。
塗り壁、漆喰、珪藻土、塗ると決めたらどう塗るか仕上げるかというお話になってきます。漆喰と珪藻土自体がまったく別物ですのでその違いについてご存知の方も少なくないかと思います。当ブログでもいずれそのお話にも触れたいところです。

ともあれ、ここでは仕上げの表情のお話です。昔で言えば漆喰といえば平らに押さえてそこに壁があるというよりは白い奥行きがある空間のような、古い日本家屋の壁、お城のような壁、蔵のような壁、そんな仕上がりが主流だったようです。
今でももちろん稀にリクエストされますがあまり多くはありません。それは、矛盾するように感じられるかもしれませんが柄やパターン、装飾性がゼロのまっさらな壁こそ一番難しく手間もかかるからです。ゼロなのに手間がかかるとはどういうことでしょうか。ご存知の方もいらっしゃるかとは思います。左官屋が壁を塗るのは鏝で塗ります。鏝で塗るということは一枚の壁を塗るためには何回かは手数が必要ということです。何手か手数が必要と言った方がイメージしやすいかもしれません。
ということは、どんな名人が塗っても、何手かはかかり、一度塗りきっただけでは乾いた後に必ずその跡が残ります。それを鏝波とか鏝跡と言ったりもします。その鏝波にも良いものから悪いものまで段階があって、そこに上手い下手は現れたりはします。それでも漆喰で一回で鏝波なしというのはなかなかあり得ることではありません。白い無のような空間にするにはそれをあらためて消す作業が必要です。それを押さえると言ったりします。また、一度塗っただけでは鏝波だけでなく目を近づけて見て初めて気がつくような細かい鳥肌のようでもっと細かい微粒子のような粒だった表情が残ります。押さえというのはそれを消していく行為でもあります。一回で消すことが不可能なのは鏝波よりもむしろこの肌理の方です。それを消していくというのは画用紙のザラザラをケント紙のツルツルにするようなイメージです。
余談ですが、さらにそれをアート紙のような光沢を出していく行為を磨きといいます。ただ、途中で予定変更して磨きにしようとかは無理で、工程がはじめから変わってきます。

そして、そうした行為に耐える壁を塗るためには、漆喰を塗る前に下塗りをするなどの前工程、また、漆喰を塗る時でも一度ではなく二度塗るなど様々な工夫が必要です。厳密に言ったら既製品の漆喰では無理だという方もいらっしゃるようです。それは、仕上げた壁を斜めから見て反射する角度によってむらがみえるとか、少し照かるとかそうした微妙なところの話です。

もちろん、どこを目指すかで同じ平らな壁を仕上げるのでも変わりはしますが、どんなに少ない手数で仕上げようとしても一つの壁に何回かは向かうことになります。柄がゼロなのに手数ががかかるというのはそういう話なのです。

また、はじめから理想のイメージがそうしたものではないということも多くあります。今回塗らせていただいた壁も、ご希望のイメージが味わいのある風情であることが元請け様によるショールームでのヒアリングでわかっていて、それから現場での弊社によるパターン確認で具体的に擦りあわせて決まりました。

お施主さまのイメージのほかに、日常生活の中で、やはり壁にまったく触れないわけにはいきませんので傷などはどうしてもついてしまいす。そうした傷は一般の方でもちょこっと直すことはできるのですが、まったく柄がない壁の傷を直した跡というのはどうしても目立ちやすいので、その意味でも多少の柄や表情を作った方が良いという側面もあります。伝統的な日本家屋や神社仏閣のような建物は柱が露出していて、その間を埋めるように壁が存在します。そうした壁は柱よりも若干へこんだところに位置しますし、角なども壁が巻き込むよりもそこにも柱が通っていることがほとんどなので生活の中で触れる機会もそれほどなかったのでしょう。

表情をつける場合でも一回目の塗りで残す鏝の跡で仕上げようという話になったりしますが、それを塗りっぱなしと呼んだりもします。今回は、追っかけ2度塗りという、一回塗った後に乾ききる前にもう一回塗り、そのときに柄をつけ、さらにもう一度部分的に柄を消していきました。そうなると塗りっぱなしというよりは、「追っかけ2度塗り1度押さえ」もしくは「追っかけ2度塗りヘッドカット」などと呼んだりします。
ヘッドカットというのは残した柄の高めに出すぎたところだけを消していく、押さえていくという意味です。普通のヘッドカットはあっさりと全体的に行いますが、今回は限りなく多めにカットして、押さえたような面積が多い感じになりました。そのあたりの塩梅はパターン合わせで決めていきます。「半々ですかねー」「いや6:4」「2:8かな」「蕎麦みたいですね」みたいなやりとりで決まるわけです。本当に1回の塗りで柄をつける場合もありますが、それは材料や下地などがまた別の場合になってきます。

こうした仕上げは現代の話だけかというと、昔もやはりそうしたご希望に応じてということはあったようで、お寺さんの壁にしても何度も押さえずに塗って仕舞いのパラリ仕上げというのがあったようです。その場合に混ぜる材料が変わるなどの調整も必要になるようですが。
最近の塗りっぱなしのシンプルな仕上げは、ラフ仕上げとかランダム仕上げとかその呼び名もなかなかとらえどころがないのですが、ご要望は間違いなくあるという状態です。お客様が「漆喰にしたいけれど、扇とか鱗とか既成のカチッとしたものではなくて、ブワーッていう渦のようなのでもなくて良くて、でも真っ平らなのは味気ないので。ちょっと素人が塗ったみたいな温かみがあるものが好きで、そんなに上手く塗っていただかなくて結構です」というような意味合いのリクエストはだいたいこの方向になります。

これは言わばパターンならぬパターンなので塗り手にとって案外厄介かもしれません。何人かで塗る場合などはその塩梅を共有しないと塗った壁が単にあちこち違うだけなどということにもなりかねません。しかし、共有することに重きを置きすぎるとそれはただの反復に限りなく近づいてしまうことにもなります。そのバランスをとって仕上げていかねばなりません。全てを一人で仕上げる方が統一感は取りやすいということになります。ともあれ、とにもかくにもお客様のイメージを可能な限り共有しないと意味がありません。そのためにパターンの確認をするわけです。

そうした仕上げは、あいまいすぎて嫌がる塗り手も少なくありませんが、そのあいまいさが面白いという塗り手もまた少なくありません。こうなると、上手くなくてもいいとはいえ、やはりある種の巧さというか要領は必要になってくるのかもしれません。ご在宅の現場で実際に見ていただくとそのあたりのニュアンスが伝わるようです。

もともと塗り壁のパターンや表情は、平面上に展開する世界として、絵画作品と共通するように感じていましたが、そうこうしているうちにやはりそうした仕上げの鏝の跡というのはちょうど画家の残すタッチ、筆跡にあたるのではないかと思うようになりました。そんな風に書くと、ゴッホのタッチ、ルノアールのタッチ、とか大げさな話になりそうですがそういう話にはなりません。
それでも、ゴッホの渦巻きは塗り壁のパターンでいえば乱流やナチュラルストームといった柄に近いものがあったりします。それを筆でやるか鏝でやるかの違いと、塗り手がどんなイメージで腕を動かすか、油絵の具か漆喰か、キャンバスの上にか壁の上にか、という違いです。号いくらか平米いくらかという違いもありますがそれはまた別の話になります。

面白いのは、壁に残す鏝の跡も塗り手のイメージによって違ってくることです。一本の線を引くのでも一人一人違うように。その個性をどのようにコントロールするかで違ってくるわけです。コントロールと言うと言葉の響きが悪いかもしれませんが、オーケストラやジャズバンドを想像していただければと思います。演奏者の個性をどれだけ抑制するか解放するか、そのさじ加減でいくらでも可能性が広がるわけです。左官の動きを初めて見る方にはそれが舞踏のように映るケースがあるようで、その体の動き、腕の動き、それによって操られる鏝の跡が仕上がりになるわけですから、ダンスのような感じとしてもイメージしやすいかもしれません。とはいえ、エンターテイメントではないので「恋ダンス」のようなわけにはいきませんが。
それでも、左官の基礎の一つである塗りつけを、見事に一つの形式として昇華して無償で発表されている久住章さんや、その火付け役をし、継承されようとしている中屋敷左官さんや原田左官さんの成果のようなストイックな塗りつけの型が、いわばフリースタイル左官みたいな感じで、鏝をジャグリングしていかにもエンターテイメント然として塗りつけるかを競うような展開もあり得なくはないかもしれません。ただ鏝は刃物ですので、慎重にことにあたらないとパフォーマンスの最中に手から離れた鏝が頭にサクッといって血が吹き出てしまうというマンガのような世界にもなりかねませんので注意が必要です。左官職人で指を鏝でスパッと切ってしまった経験がある人も少なくないはずです。決して人には言わないはずですが。

鏝跡と画家の筆跡との関係ですが、ゴッホやルノアールのような対象物を描く画家よりも、そうした筆跡そのものや、幾何形態のような形を作品としている画家の方がよりイメージしやすいと思います。
例えば、最近建築雑誌などで磨きの壁との類比として見かけたりもするマーク・ロスコなどもそうした画家に入ります。その年代には筆跡やタッチを生かした作品が多く作り出されています。日本でも中西夏之さんや李禹煥さんに高松次郎さん。それこそ身体の動きがダイレクトに残るという点では篠原有司男さんが作り出す絵の具の軌跡。
また、書家の筆の運びにも親和性があるように感じます。それも、可読性の低い、前衛書のような世界です。

こんな風に書いていくと、ずいぶんと派手で難解な壁のように思われるかもしれませんがそんなことは全く無く、仕上がった壁の初見は真っ白な壁です。そこに時間帯によって日が差し込んできたりすると陰影となって部分的に浮かび上がってくる表情にそれがうっすらと現れてくるにすぎません。一人一人が違うとはいえ、そこで個性を主張しあうわけではなく、個々に匿名性を競い合っている感じです。好きにやってよ、とおっしゃっていただける時には多少の個性が発揮される場合もありますが。本当に個性を求められるのは、挟土秀平さんや久住有生さんのような人達で、そうなると柄がどうとかの世界とはまったく次元が違ってきます。

ならばどんなふうに塗ったって同じじゃん、と思われる方も多いでしょうが、不思議とそうではないのです。あまりにも投げやりだとやはり単に汚く見えてしまったりするものです。逆に、ご自分で塗りたい、とおっしゃるお施主様が、一生懸命に残した鏝の跡は、なぜか前向きなオーラを醸し出すときがあるから不思議です。真に一点ものの味わいが現れるのでしょうか。
ただ、角の部分や端の部分などの細かいところの仕上げに関しては左官仕上げに慣れている人が手がけたほうがぐっと締まることが多いです。それから、お住まいのすべての壁をそのように塗り切るのはなかなかに大変です。お客様が一枚の壁を塗っている間に、左官職人は一部屋塗ってしまうかもしれません。そのスピードの差がどうにもならない差となって現れます。遅れは乾きを生み、乾きは塗りつぎを生み、計画性のない塗りつぎはもはや味として見るには無理が出て来てしまいます。
長い年月を経た塗りつぎのある壁の味わいともまた別になってしまいます。細かな塗り残しなども案外多くなってしまうようです。

一見して白い壁に、時間帯によって差し込む光の変化に伴う陰影のつくりだす表情は、見飽きることがありません。ぼーっとそんな表情を眺めているときに、考えるともなく考える、イメージすることなくイメージするような時間は、なかなかによきひとときであります。かつて、レオナルドダヴィンチは壁の染みを見よ、というようなことを言っていたそうです。有名な作品の下地なども漆喰だったようです。ダヴィンチは染みだけでなく刻々と移り変わる陰影が織りなす現象のようなもののことも指していたのではないでしょうか。

また、最初の方で触れましたように、漆喰はそうした表層上の趣の良さだけではなく、特筆すべき材料の性質を持ち合わせています。そのあたりにつきましても、またあらためてお話させていただければと思います。

やや大げさになりましたが、そんなささやかなイマジネーションと尽きせぬ可能性が宿るような塗り壁。本年も弊社にお任せくださいますようよろしくお願いいたします。

2018年02月07日 町場

町場職人さん募集

町場部門の左官職人を目指す方1名募集します。全くの未経験者からご応募可能です。
良いものを作りたい、良いものを世に残したい、という気持ちがあり、その切り口・入り口として左官を意識する人でしたらぜひご連絡下さい。

現在の仕事のメインは、内装の漆喰、珪藻土による仕上げです。
ほかに、店舗の特殊な仕上げ、外部エクステリアの一部として壁の下地モルタルからジョリパットなどの仕上げ、外壁のリフォームによる左官補修、外壁の塗り壁リフォームなど、稀に造形モルタルなどもあります。

また、弊社野丁場部門のからみで生まれる内装の珪藻土仕上げ工事や、補修工事も稀にあります。
過去には新築の外壁モルタル下地塗りから西洋漆喰などによる仕上げ、外断熱下地への樹脂モルタルネット伏せ込み後の樹脂系塗り壁材による仕上げ、内部ではドライウォール系のジョイントテーピングを含む下地工事から仕上げまでを行うこともありましたが、現在は調整中です。

まずは、以上の各種施工における準備段階の仕事からの手伝い、それから徐々に道具の使い方、養生、下地、仕上げと経験していただきます。遅くても3年で一つの簡単な仕上げをマスターすることが目標です。やる気と粘りがあればじゅうぶん可能です。

今後も内装の珪藻土や漆喰を中心に、何が本当にお客様に求められているのか、また、自分たちが何を求め、また何ができるのか。常にアンテナを張り巡らせ、勉強し、弛まずにお仕事をさせていただこうという姿勢でおります。
また、そうした姿勢にご賛同いただき、お力を貸していただけるという経験者の方々からのご連絡はこれからも常にお待ちしております。

ご応募・お問い合わせは応募フォームをご利用ください。

2018年02月01日 町場

細部に宿るもの

暑い夏が終わります。猛暑、豪雨、空梅雨、どれが今年の夏のイメージだったかと考えるとき、特にどれとはあてはまらない不思議な夏だった気がします。外は外で暑いし、中は中で蒸して暑いのは毎年のことでしたが、熱中症にもならず、どうにかこうにか乗り切ることができました。
これからはすごしやすい季節です。そのぶん陽が短くなっていくのが悩ましく、またちょっと寂しくもなる季節に移り変わっていきますが、手元足元注意で、時にはライトの準備も万端に、左官日和を充実させていきたいところです。
今回はちょっと細かなディテールのご紹介です。建物には出っ張りやへっこみなど凹凸があります。室内とくればさらに細かい表情が出てきます。マンションでしたら鉄筋コンクリート造という構造から表れる柱や梁などが織り成す表情がいくつもあります。最近では開口部がアーチになっていたり、壁も3次曲面でデザインされている造形物のような場所が出てきたり、遊びごごろ満載なケースもあったりします。
そうした細部は「役物」と呼ばれたりすることがあります。役物を鏝で塗るのはやはりそれなりに手間がかかります。ですから、そうした役物を塗るのには少々技術が必要だから普通の壁とは違った見積もりが必要、とお考えいただける場合もあります。
逆に、現場の平米数がある程度出ている場合は、平米幾らと決まっている単価で単純に掛け合わされて予算が決まってしまい、残念なことに別に計算はできないということも珍しくありません。
その場合、例えば50平米と聞いて現場に入ってみたら・・あれー壁がない!ほとんど柱と梁じゃん!みたいになってたちまち左官屋残酷物語みたいな様相を呈することもあったりします。あまりにも極端な場合はそこでご相談となりますが、たいていの場合は何とかなりそうな絶妙なブレンド具合なことが普通です。また、ご存知の方も多いかもしれませんが左官業界も工業化の波に飲まれて一旦は絶滅危惧状態になり、施工側も依頼側もいったんは人々の記憶からほぼほぼ消え去ってからしばらく経ってまた復活してきているようなところがあるので、幸か不幸か施工側も依頼側も意識が昔と少しばかり違っているかもしれません。なので、現場で施工側が監督さんに「あのー・・。ここ、壁らしい壁が無いですね。」と水を向けたとしても「え?標準的なマンションのリビングですよね」「あ、いや、でも天井、3段上がって・・、梁はぐるっとつながって柱も8本・・」「ああ・・。マンションですからね」「これ、平米って感じじゃ・・」「ああ、計るの大変でしたよー。でもちゃんと測りましたよ。ひとつスケールダメにしちゃいましたよ。買ってもらえます?なーんて、冗談ですよー。やだなー。」「・・」・・というような感じのディスコミュニケーション状態になることがほとんどだったりします。確かにそうした現場で役物としてひとつひとつ数え始めて金額を決めていたら大変なことにもなりかねません。マンションの作り自体が昔は想定の中心ではなかったでしょうからなおさらです。
ともあれ、やっているうちにだんだんコツを覚えてきて、何とか予算内で美しくおさまるようにもなってきます。材料やパターンによっておさめ方も違って来ます。今回は珪藻土や漆喰を一回塗ってそのまま柄を程よくつけた場合の、特別な単価がついているわけではないちょっとしたかわいらしい凹凸達のご紹介です。昔の蔵の何段もある扉や、家紋、それらを漆喰で塗っておさえて・・そうした桁違いの手間と技術を費やすものとは別ものですが、そうそう潤沢な予算がない中でも、であるがゆえにサラサラッとまとめられた細部の表情も、それはそれで気持ちが良いものです。
塗り壁にご興味がありながら採用を躊躇される理由は色々ありますが、細かいところが汚くなったり尖ったりささくれ立ったりしててケガしそう、というイメージもあるようです。これを機会に、そんな心配は無さそうで、案外キレイ、むしろ美しいかも、撫でてみたいかも、頬ずりしたいかもと少しでも良いイメージに転化されれば幸いです。
余談ですが、建築家のクリストファー・アレグザンダーという人は「パターンランゲージ」という都市計画における必要なパターンとして提示した200以上ある項目の中の「壁」の項に“厚い壁”、さらにその表面においては“石膏プラスター”といった塗り壁材料をあげています。それは、人が思わず触ってしまう温もり、よりかかってしまいたくなるような柔らかさ、時にはみずから加工したりして、暮らしていた痕跡を残し、記憶として蓄積させていくことができるからだそうです。
(もちろん、その厚い壁というのは最低でも30センチで、加工というのはどうやらそこにニッチを掘り込んだりという、考えている環境の違いが大きいので、単純に取り入れることはできません。また、ボードに貼られたクロスや塗装の壁に残されたカレンダーを留めていた画鋲の跡とかも、暮らしの痕跡といえば暮らしの痕跡ですし、それも案外可愛いものです。アレグザンダーさんは感心しないかもしれませんが。)


町場ブログ1014_柱
これはよくある柱です。4面あり、角は丸い面で仕上げています。『これぐらいどーってことないんじゃないのかしら』と思われる向きもあるかと思いますが、この4面、展開して1面にしたものを塗る場合と比べてみて下さい。想像してみて下さい。・・想像できませんよね。塗ったことがなければ無理もありません。ともあれ、一息にさっと塗るよりも、単純に手数が必要なのです。
よくあるのは、ここでは丸く仕上げている角が、結構ガビガビになっていたりするパターンです。もちろん、そうした仕上がりを目指す場合もあります。打ち合わせがないままガビガビになっていると「・・汚ない・・それに危ない・・」となってしまう場合があります。写真くらいの仕上がりならば、どちらであれあまり不愉快には思われることはありません。光と陰の織りなす表情とあいまって、ザラザラっとした風合いが、シンプルながらも飽きさせない空気感を作り出します。このザラザラ感は材料に骨材というものが混ざっていると現れる表情です。これについては後半の話でまた少し触れます。


町場ブログ1014_階段裏
さて、次はこれ。これ、何だかわかりますか。階段の裏側です。逆張りの階段なんて呼んだりすることもあります。こうしたところは斜めに一枚板を張って隠す場合も多いのですが、こうして露出したままのこともあります。これが1階から3階までずっとあって何段あるんですか30段・・?などというときはちょっとちょっとです。仕上がってみるとちょっと陰影も綺麗なのですが。

町場ブログ1014_棚
次は棚ですが、これは場所がトイレのようなところで一段一段が拳1つぶんくらいの低いもので、一番下などはなかなか見るのもしんどく、その際背後の壁に足が当たりかねないというシチュエーションも含めてご想像いただきたいところです。

町場ブログ1014_壁
これは、もはや写真だとストライプにしかみえないですが、細いUの字が棚から生えているような見え方をしています。パントリーのような奥まった場所なので、これもUの字の右も左も人1人入れるかどうかといったギリギリのスペースになっています。
町場ブログ1014_角
これはTの字が天井から降りてきています。下は下でまた低く横に広がっていたりします。


町場ブログ1014_天端
これは天場といって物を乗せられるようなところも塗る珍しい造作になっているので若干ややこしいことになっています。そうしたところは普通は板をつけるなどしてあるので珍しいケースです。


町場ブログ1014_アーチ1
これなどはアーチが天井からフワーッ降りてきて壁に至るという大胆なデザインです。

町場ブログ1014_アーチ2
そしてこれもアーチ。この二枚は漆喰です。骨材が入っていないので滑らかです。

町場ブログ1014_柱と梁と壁1

町場ブログ1014_柱と梁と壁2
これも漆喰です。これがマンション特有の、柱と梁と壁による造形美です。ただ、角のところは途中で切らずに一気に塗りきってしまわないとなかなか綺麗には仕上がらないので、そこが面白くもあり厄介なところでもあります。

いかがでしたでしょうか。案外やさしい表情ですよね。途中でもふれましたがちょっと粒立ちがあるのは骨材というものが混ざっている材料だからです。材料の強度を増すためだったり、厚めに塗りやすくするためだったり、ザラッとした風合いを出すためだったり、用途に応じて混入されます。また、乾きをみてからもう一度表面をおさえてその粒立ちを目立たなくしてもう少し滑らかにする方法もあります。ただ、もう一手間かかる仕上げになるためご予算との兼ね合いが出てきます。今回の写真にあるものは珪藻土で、あらかじめ材料メーカーの方で混入されているものです。日本の漆喰を仕上げで使う場合は骨材を混ぜずに使ってさらに押さえて滑らかにすることが多いので、仕上がりの表情も対照的です。ただ、西洋漆喰というものもあって、その場合はあらかじめ骨材が混ざっていて、仕上がりの表情も、一回塗って粒立ちをそのままにして仕上げた場合、ザラッとした見え方がよく似ていたりするものもあります。もちろん日本の漆喰でもあえて骨材を加えて表情をざらつかせたり、下塗りのための砂漆喰として使ったりする場合もあります。すると、骨材を混ぜた日本の漆喰と西洋漆喰は同じもの?という疑問が浮かびますがそうとも言えなかったりします。
そうした材料についてのお話も面白い世界ですがキリがない世界でもありますのでまた機会をあらためてと思います。
それでは、過ごしやすい季節になるとはいえ、寒暖の差によって体調を崩したりしがちです。気をつけてお過ごしください。

2017年10月14日 町場

2017上半期・塗り壁セレクション

早いもので本年も半分が過ぎようとしています。これからは暑い夏に入っていき、猛暑とゲリラ豪雨との戦い、熱中症対策が大切な季節になってきます。この間もさまざまな現場に出入りさせていただきました。
珪藻土のMPパウダーを使った現場はワンちゃんがとても元気なところでした。漆喰のカルクウォールの現場では、ご家族5人の手形を残されました。さりげない場所に残したいということでロフトへ上がった階段のつきあたりの壁になりました。赤ちゃんと奥さまがちょっと大変な思いをされましたがそれも含めて微笑ましいイベントになりました。大工さんと塗装屋さんとタイル屋さんと皆が一緒になる日があるという稀な現場で、冗談を言い合っているうちに大工さんが本気で怒りはじめて帰ってしまったエピソードも、今では楽しい思い出です。
おかげさまで、そんなこんなでつづいている左官日和、今回は外壁の塗り替えのご紹介です。
もともとこの現場のお隣のお宅の外壁塗装をされた会社さまが元請けで、ご近所さまへの挨拶のときなど、会話の流れの中で話が弾んだのか、ぜひともやろうじゃないかということになったそうです。既存の外壁は漆喰で、南フランスの自然が豊かな地方にたたずむお家を彷彿とさせるようなイメージの、手づくりの温もりを感じさせる、童話の世界のようなお宅です。ただ、経年による細かなひびや、汚れ、ところどころ剥離がみられたりして、それを、塗り壁ならではの味わいととらえるかどうかが価値観のわかれ目になる状態でした。

施工前1

施工前2

施工前3

個人的には経年変化が地層になってあらわれているような表情が味わいに見えましたので、あきらかな劣化部分を直した上で、エイジングなど造形的な仕上げを目指しても良いのではないかと思ったりもしました。が、お施主さまはそうした味わいよりもシンプルに綺麗さを求められていたので、そんな心の声は胸のうちにしまっておきました。
ならば、漆喰の上に薄く塗れるような塗装を選んでも良いのではと会社さんに話してみたところ、お施主さまが漆喰にこだわられているということでした。左官屋にとってはありがたい話です。しかし、漆喰の上に漆喰というのは案外なかなかの仕事です。
下地の状況にもよりますし、基本的に漆喰の上にまた漆喰を塗るのはおいそれとは無理というのが主流でした。なので塗装屋さんもそう簡単にはやりません。とはいいつつも漆喰で仕上がっていた室内が、あっさりとペンキで塗りかえてあったりするケースに出会うことも珍しくありませんので、定跡と現実のズレというのもよくあることではあります。
それに、古い常識が乗り越えられることもまた歴史上の常識とも言えます。材料メーカーも色々と開発していて、漆喰の上にローラーで塗れる「漆喰塗料」などもあるようです。それなども良いのではないかと話題にしてみましたが、あまり反応はありませんでした。それに既存の漆喰は黄土を混ぜたような微妙なベージュで、調べた漆喰塗料には白しかないようでした。
最初に建てられたときの情報がちょっとでもあると便利なのですが、残念ながら残されていませんでした。たまたま以前に施工したことのあるタイプにそっくりの仕上げだったのでおおよその見当はつくのですが、色出しが黄土と思い込んでいたら、意外に違いそうな感じで、ひょっとしたら京錆土のような・・。そうなると金額も変わって来てしまう。是非確認してみたかったのですが、かなり遠方の左官屋さんだったようで、今回弊社に話がまわってきたのもそれが要因の一つだったようでしたから、あとは観察と調査と想像力で補うしかありません。このような状況になると、『この建物を救えるのは自分しかいない』というような、強迫観念にも似た使命感に駆られてきます。
色に関しては経年による変化、それも場所による差違もあり、一概には決められず、また、色漆喰にありがちな、施工状況による色の出方の変化というものを考えてみても黄土と断定するのは危険そうであることに思い至りました。足場がかかって、下処理しながら各所を観察していけばいくほど発見があるので、臨機応変に方法を変化させることも必要だったりします。
最終的にマインの山吹と焦茶を使い、ブレンドの度合いで差をつけてサンプルを作り、選んでいただくことにしました。単色であれば比較的楽でしたが、だいたいブレンドが選ばれます。その色がより既存と要望に近い以上は無理もありません。
しかし、漆喰を塗る前にまずは下地をしっかりさせなければなりません。ヘアークラックという細いひびならそのまま塗って下地の補強と上塗りの漆喰との密着を良くできるという日本プラスターのNPαという材料を全面に塗りました。
笠木にレンガを使ったベランダの壁のところの劣化はちょっと激しく、ほとんど漆喰が剥がれてしまっている状態でした。

施工前4
施工前5
施工前6
施工前7

1階部分でも雨あたりの激しかったところなのか、北東のあたりの水切り近辺で、レンガととりあっているあたりに同じような劣化が見られました。そうしたところはとにかく剥げるところは剥いで、浸透性のプライマーで下地を補強して、NPαに珪砂を混ぜて厚く段差を補正できるようにして塗っておきます。その後、NPαを全面にしごき塗りしていきます。
ご近所さまも気さくにお話ししてくれる方が多かったのですが、NPαが真っ白な材料なのでそのしごき塗りが終わった段階で『キレイですねー』とお声がけいただいたりして、本塗りはこれからですー、などと応じると『ももう一回塗るんですか!』と驚かれていました。この現場に限らず、左官屋の仕事ははたから見ているとかなり手間をかけているように見えるらしく、驚かれることが多々あります。一般のお客様は仕上がった状態をご覧になっているので、仕上がってからは目に見えない、下地での仕事の重要性を知るととても新鮮なのだそうです。
仕上げ塗りの前には漆喰用のシーラーを塗って乾かし、仕上げ塗りする直前にもう一度塗ることにしました。外部は乾きも早いので念には念を入れてです。周辺は自然が豊かで、風通しも良いので、案の定、乾きが早かったのでその判断は正しかったようです。自然には逆らえません。
その逆らえない自然の力にはもう一つ雨という強力な勢力があります。この現場は天気が変わりやすい場所だったのか、予報に反して雨が降ったり、風も暴風と言っても良いくらいの日があったり、なかなか凄いものでした。
あまりにも凄まじいので、足場には防音、防塵などのためのネットが張り巡らされているのですが、それだけでは足りずに防風のための養生、まだゲリラ豪雨の時期ではありませんでしたが、それでも急な雨のための養生など、養生に次ぐ養生です。そして、最初に塗った左官屋さん達の奮闘ぶりも頭に浮かぶのでした。遠方から来て、下地のモルタルからとなるとさらに相当な労力なはずで、今回のように既存の仕上げから想像できることも少なかったはずで、初回となるとさらに意表をつくトラブルもあったはずなのです。
とはいえ、2回目は2回目で初回にはない大変な面はあります。一度仕上がった建物には様々な器具が付いており、配管なども走り、プロパンガスのタンクが設置されていたり、外構も完成しており、新築現場と違って汚せるところはゼロです。養生の気の使い方は相当なもので、材料を捏ねる場所にも気を使います。今回はテントを張り、四方をブルーシートで囲み、万が一の雨風を凌ぐと同時に、近隣の方々へ粉塵が飛ばされないようにしました。さながらキャンプです。出張先で宿泊施設なども遠いお施主さんのお宅の場合、庭先にプレハブを建ててしばらく住み込む大工さんがいらっしゃったりすることがありますが、今回も外見からしたら住んでいるかのような風情だったかもしれません。
漆喰は練りおきする必要もあるので前もってそのベースキャンプでひたすら材料練りです。1日でいけるかと思ったのですが、色粉の段取りもあったので2日かかってしまいました。でも、そうすることで塗りやすい漆喰が生まれるのです。
ところで、この現場の近所には陶芸教室があって、一服のときにおじゃまする時がありました。とても雰囲気の良いところで、作品を拝見したり窯場なども見せていただきました。陶芸の先生も、モノづくりが好きということでちょいちょい気にしてくれていたようで、材料の仕込みなど、共通するところがありますねえなどといった話をしながらカフェオレをご馳走になりました。合間合間に入れてくださったこの陶芸の先生の合いの手は本当に絶妙で楽しいものでした。
お施主さまにも暑いときにはスポーツドリンク、肌寒いときには暖かい飲み物、自分の娘の話になった後にはお菓子をお土産に、時にはビールをお土産に・・・と、本当にお世話になりました。ますます力が入るというもので、全力で事に当たらせていただきました(もちろん常に全力ですが!)。仕上がりにもご満足いただけて本当に良かったです。

施工後1
施工後2
施工後4

その後、しばらくして元請けの会社さまから連絡が入りました。ごぶさたしておりますー、ひょっとして他にもお仕事だったりしますか・・などと話していたら驚きの内容でした。この建物の前面には車をとめるスペースがあるのですが、そこにスタンプコンクリートのような意匠を施す塗装屋さんの仕事が残されていました。なんとその際に壁を汚してしまったというのです。

施工後5
施工後6

あまりのことにさすがに最初は声も出ませんでしたが、この現場の自然の力、風の強さなどは肌身に感じていたので、アクシデントの内容ははまざまざと想像がつきました。
しかし、漆喰を部分補修できないのはわりとよく知られた話です。しかも色を使っていますからなおのことです。
トラブルの状況は写真ではなかなかわからなかったので、現場の帰りに直接見に行ってみると、塗装の吹き付けが風であおられて細かく飛び散っていました。仕上がりを気に入られていたお施主さんもさぞ落ち込んでいることと思ったら案外そうでもなく、しかし、その理由がすんなり元どおりになると思っているからだと知ると、気が気ではありません。もとにはもどらないのです。絶対に補修箇所はわかってしまいます。手づくりの風合いの、ラフな仕上げなため、違和感を無くす工夫の余地は確かにあるのですが、完全にはなくなりません。
汚れが落ちれば一番良いので洗浄を試してみましたが、さすがに無理でした。塗装屋さんもその場で落とそうとトライした跡が、逆にトラブルの大きさを物語っています。
考えに考えました。せっかく喜んでいただいた仕上げを、台無しにして終わることがあってはなりません。かといって足場を立てて一面塗り直すという事態も求められていません。かといって妥協の産物にもしたくありません。
飛び散った点を細かく塗るということは無理なので、飛び散ったエリアを広く塗るしかありません。水切りから100、120センチくらいの高さまで広く塗料が散っているので、そのエリアは端から端まで塗ります。問題は継ぎ目をどうするかです。不定形にぼかしてくれればというのがリクエスト内容ですが、「ぼかして」というのがくせ者で、その度合いが人によって千差万別と言っても良いくらいです。一般的にはほぼゼロになると思われていて、現実にはゼロにはなりません。どれだけ説明しても蓋を開けたらあれっ・・こんなはずでは・・となることが少なくありません。
考えているうちに、この建物のデザインには、部分的にレンガが配してあったり、正面から件の壁の途中まで、それから裏の勝手口までは、見切るように板が巻かれています。そして、その見切りの下側にはレンガが密に積まれていたり、まばらに貼ってあったりします。そこにはストーリーがみて取れます。まばらに貼ってある、とも言えますが、密に積んであったレンガが朽ちていき、その部分を漆喰で補修したようにも見えるのです。それを延長して考えてみました。件の壁面も補修で塗る高さはほぼその見切りと同じ高さで通すことが出来そうです。補修のラインが残るのなら、積極的に残して、補修にみせずに意匠にみせる選択肢もあるのではないかと思ったのです。元請け会社さんにもお話しするとご理解いただけました。しかし、お施主さんがどちらを好むかはわかりませんので、現場でお選びいただくことにしました。実際に塗った場合に不定形に極力ぼかすといってもどの程度になるのかを見ていただき、後日また仕上げることにしました。
中1日をあけて、やはりラインを出し、意匠的にあえて差を出そうという方針になりました。レンガを覆うように塗ったかのような凹凸も増やして、補修したというような見え方をしないように。かといってあまりにもやり過ぎるのもよくないのでそのあたりは控えめに。写真のような感じになりました。
これで、いろいろありましたが一件落着です。みなさんに送り出されたときには本当に長丁場の現場で思い出深く、一生忘れないだろうなとちょっとセンチメンタルな気分になりました。

施工後7

数日後、見知らぬ番号から着信がありました。誰かと思えばお施主さんです。なにかと思えば、やっぱりラインが気になると・・!?。そうなのです。どんなにお話しをしても、結果、本当にどのように感じられるかはわからないのです。実際に目にするとやはり・・ということもあるのです。
そこまでご希望されるならというわけでもう一度、極力、不定形にぼかす仕上げをしに行きました。かなり神経を使って、ぼかす際の形態やぼかし方には相当こだわりましたが、やはり多少は差が出て見えます。しかし、翌日ご覧になったお施主さまも、十分許容範囲とおっしゃって下さり、今度こそ完工となりました。
本当に思い出深い現場になりました。ありがとうございました。また近くの現場のときには立ち寄らせていただこうかと思っております。よろしくお願いいたします。

施工後8
施工後9
施工後10
施工後11

2017年06月05日 町場